著者からのメッセージ

山下太郎:しっかり学ぶ初級ラテン語

 この本は独習者用のラテン語の入門書です。扱った例文は五百、羅文和訳の練習問題は二百。それぞれに語彙と解説、解答をつけました。また、西洋古典への窓口になればと願って出典も添えました(これは小林先生の『楽しく学ぶラテン語』にならったもの)。

 入門書の割に本のボリュームが大きくなったのは、解説をできるだけ丁寧にしたためです。といって、それにも限界はあり、とことん詳しく書けば、ゆうに今の二倍、三倍のページが必要でした。説明の不足は読者からの質問に答えることによって補う方針で、そのことはあとがきに明記しました。

 出版後にメールやTwitterで受けつけた質問はFAQの形でホームページに掲載。誤植の指摘も正誤表の形で公開中です。単語集や活用変化の一覧表を巻末に載せる余裕はなく、いずれもホームページからダウンロードできるようにしました。古典語の学習に活用変化の暗記は不可欠ですが、これまたスペースの関係で、教科書でなくウェブ上にラテン語クイズを設けました。

 例えば第一変化名詞のテストを選ぶと、画面上に「rosaの複数主格は?」と問いが表示されます。キーボードでrosaeとタイプすると「正解!」とカウントされる仕組みです。解答のスピードと正解率が克明に記録され、成績上位者のランキングと自分の偏差値が即座にわかります。これは、某アニメサイトのマニア向けクイズをラテン語用にアレンジしたもので、わが国のアニメ文化の恩恵に浴した形です。

 本書の企画が決まったのは一年前の八月。ちょうどその頃、私は一般向けのラテン語講習会を東京でスタートさせていました。受講生は高校生から会社を引退したシニアまで幅広いのですが、誰がもラテン語をものにしたいという真摯な気持ちでいっぱいです。一回三時間、合計六回の講義を受けると辞書の引き方が身につき、ラテン語文法全体の鳥瞰図が手に入る。そんな敷居の低い入門コースを計画し、すでにある程度の教材を準備していました。

 これが本書の下敷きです。私は教科書の原稿を書き進めながら、そのファイルを受講生向けに公開し、いつでもダウンロードできるようにしました。一人一人の顔を思い浮かべながら、少しでも予習しやすい解説文を書いていく。授業後は、受講生との質疑をふまえながら加筆修正を重ねていく。本業の合間を縫っての執筆となりましたが、熱心な受講生の存在が執筆のよきペースメーカーとなり、思いの外早く、出版社に原稿を提出することが出来ました。

 本書を手に取った人から、「高校生用の学習参考書のような体裁だ」とよく言われます。私はありがたい言葉だと思っています。内容についても、高校生が理解できる文体を心がけました。一人でも多くの人に、とりわけ若い世代の人にラテン語の勉強をしてほしいと願っています。その結果、西洋古典の裾野が少しでも広がれば、何より喜ばしいことだと思っています。

山下太郎(山下太郎のラテン語入門 ホームページ:http://www.kitashirakawa.jp/taro/

書誌情報:山下太郎『しっかり学ぶ初級ラテン語』(ベレ出版 2013)