Q&Aコーナー
質問
最近ギリシア語・ラテン語を学び始めた者です。
羅英辞典などを見ていますと、ある単語にギリシア語の似た形・意味の単語との関連が書かれていることがあり、興味深く読んでいます。
そこで質問なのですが、こういったギリシア語とラテン語間の単語の対応がまとまっている書籍はどういったものがありますでしょうか。また、同一言語内での類語辞典もお教えいただければと思います。よろしくお願いいたします。
(質問者: ぼたもこ様)
回答
ご質問ありがとうございました.
ギリシア語・ラテン語間の単語の対応,それぞれの言語の中での類義語や同義語を調べるのに適した工具書を以下にご紹介します.Google BooksやInternet Archiveなどを通してweb上で閲覧できるものについてはリンクも記します.
ギリシア語からラテン語を引く辞書・ラテン語からギリシア語を引く辞書
ギリシア語→ラテン語,ラテン語→ギリシア語両方を兼ねた辞書ものとしては,B. Hedericusのもの(Novum lexicon manuale Latino-Graecum et Graeco-Latinum)とC. Schreveliusのもの(Lexicon manuale Graeco-Latinum et Latino-Graecum)があり,古い本ですがいずれもこちらで見出し語を検索して利用できます.ギリシア語→ラテン語のみですと,コンパクトにまとまった辞書としてE.F. Leopold, Lexicon Graeco-Latinum manuale. Lipsiae 1852もあります.より大きな辞書としては,H. StephanusのThesaurus Graecae linguaeがあります(各巻へのリンクはこちらにまとめられています).
両言語間の類義語の対応という点では,J.H. Heinrich Schmidt, Handbuch der lateinischen und griechischen Synonymik. Leipzig 1889もまた参考になるかもしれません.また,通常のギリシア語辞書の中でも釈義にラテン語が用いられることはあり,例えば,G.Autenrieth, An Homeric Dictionary for Use in Schools and Collegesにはところどころ,ラテン語で語釈が施されています.
ギリシア語の類義語辞典・単一言語辞書
ギリシア語の類語辞典としては,J.H. Heinrich Schmidt, Synonymik der Griechischen Sprache. 4 Bde. Leipzig 1876-1886 (Bd. 1, Bd. 2, Bd. 3, Bd. 4)という本があり,半ば辞書形式,半ば記述式になっています.例えば,ὁρᾶνについては ἰδεῖν, βλέπειν, λεύσσειν, δέρκεσθαι, ἀθρεῖν, σκέπτεσθαι, παπταίνειν, δοκεύειν, θεᾶσθαιが示されています(ὄσσεσθαιなどが抜けています).これに似た趣旨の書物としてA.J.B. Pillon, Synonymes grecs. Paris 1847もあり,こちらには英語版(Handbook of Greek synonymes. London 1850)もあります.
古典ギリシア語で古典ギリシア語を説明した単一言語辞書(monolingual dictionary)としては,E. Caruso, Vocabolario monolingue di greco antico-Monolingual dictionary of ancient Greekという本が2014年に出版されたようですが,回答者は未見です.厳密な意味で古典ギリシア語の単一言語辞書ではありませんが,Δ. Δημητράκος, Μέγα λεξικὸν ὅλης τῆς Ἑλληνικῆς γλώσσης. Ἀθῆναι 1936-1951(もとは9巻ですが,15巻に分かれたリプリントが1964年にも出ています)は,古典の語彙も採録しており,その釈義は古典語の学習者にとっても参考になるところが少なくないように思われます.このほか,韻文に特化した辞典として,J. Blasse, Greek Gradus. London 1842があります.
ラテン語の類義語辞典・単一言語辞書
ラテン語の類義語を扱った書物としては,L. Doederlein, Lateinische Synonyme und Etymologieen. Leipzig 1826-1839という浩瀚な書物があります(各巻のリンクは,後に記すAccademia Vivarium Novumのサイトをご覧ください).しかし,より新しく一冊で完結したものとしておすすめできるのは,H. Menge, Lateinische Synonymik. Heidelberg 92011で,類語間の微妙なニュアンスや用法の差が説明されています.また,Oxford Latin Dictionaryに依拠してラテン語の類義語を整理したオンライン辞書のプロジェクトが進められており(T. Spinelli, G. Fenzi, Online Dictionary of Latin Near-Synonoyms),サンプル版がAndroidアプリとしてすでに提供されているようですので,最近の事例としてご紹介します.
ラテン語の単一言語辞書としては,Gesnerのもの(R. Estienne, J.M. Gesner, Novus linguae et eruditionis Romanae thesaurus. Lipsiae 1749)やForcelliniのもの(E. Forcellini, G. Furlanetto, F. Corradini, J. Perin, Lexicon totius Latinitatis. Patavii 1940(初版は1771年で,左はOnomasticonを含む全6巻にPerinによる補遺(Appendix)がついたものの書誌情報です.本体部分はこちらでも検索できます)があります.今もなお刊行中のThesaurus linguae Latinaeも,研究者向けですが,加えることができるでしょう.単なる類義語にとどまらず多彩なパラフレーズを覓める人には,F. Wagner, Lexicon Latinum. Brugis 1878が最も好適です.また,韻文に特化した辞典としては,G.A. Koch, Gradus ad Parnassum. Leipzig 1879があります.
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上には回答者が普段よく頼りにするものを挙げましたが,古書も含めるとこの種の工具書は他にも数多くあります.ローマの古典語学校Accademia Vivarium Novumが提供する教育資源のうち,SinonimiやDizionariの項には類書が多く紹介されていますので,そちらからも趣味や目的に適うものを探すことができます.
最後になりますが,過去にQandAコーナーへ寄せられた質問のうち,「ギリシア語の単語からそれに由来する現代英単語を調べられる手っ取り早い方法はありますでしょうか?」への回答にも類語や派生語を調べるヒントがありますので,参考にしていただければと幸いです.
(回答:竹下哲文)