訳者からのメッセージ

山沢孝至:アンミアヌス・マルケリヌス『ローマ帝政の歴史1──ユリアヌス登場』

訳者自解

 原稿の遅滞のため京都大学学術出版会に多大の迷惑をかけていたアンミアヌスの、第1分冊がともかくも仕上がった。しかし、自分で言うのもなんだが、少々クセのある翻訳になってしまったことは否めない。こんなものを出してよかったのだろうかと、いまだに気が晴れない。

 文学畑の人間が訳すからには、アンミアヌスのラテン語原文の、名うての読みづらさもあわせて再現しようと考えたのが、そもそもの発端。冗長な文は冗長に、簡潔な文は簡潔に、リズムに重きを置く文体だから間延びのする言い回しは避けて、言葉の並びもなるべくなら原文をなぞるように、等々とやっていると、出来上がった訳文は、たしかに平易とは言い難いものになった(はずである)。もっとも、どこまでが原文のせいで、どこからが訳者の非力に由来するのかと改めて問いただされると、正直、答えに窮する。

 読み易さがもてはやされる昨今の原典翻訳の世界で、時流に逆らうような出版物となったが、訳者としては、少し時間をかけて(しかし、訳文への不満が募らない程度には急いで)、この肩の凝る(?)歴史読み物を楽しんで頂ければと思う。

 なお、ローマ史を専門とする方々には、訳語や註にご不満があるかもしれない。この点も、前もってお詫びしておきたい。

山沢孝至(神戸大学)

書誌情報:山沢孝至訳、アンミアヌス・マルケリヌス『ローマ帝政の歴史1──ユリアヌス登場』(京都大学学術出版会西洋古典叢書、2017年11月)