西洋古典学への誘い
西洋古典学を学ぶきっかけ
僕とエラスムスと西洋古典学
「エラスムスはルネサンス期最大の知識人だ」
ルネサンス期の思想史を専門的に勉強することにしようと(ぼんやりと)考え始めていた僕が、こんな言葉を大学の先生から聞いて、授業後真っ先に図書館へ行き、『痴愚神礼讃』を読んでみたのを覚えています。
内容云々よりも気になったのが、あちこちに出てくる、なんとかオスだのなんとかウスだのという人名でした。そばにある説明には、彼らは「ギリシア人」もしくは「ローマ人」だと書かれてありました。聞いたことだけはあった「ギリシア・ローマ神話」の神様も数多く言及されていました。そういえば、ルネサンス期は、「ギリシア・ローマの復興の時代」だったっけな。エラスムス、あとルネサンスという時代全体を理解するためには、まずこの「ギリシア・ローマ」が何なのかを知っておかなくちゃいけないわけか。こう考えて、僕は、ギリシア人・ローマ人が書いた作品の日本語訳、そして、関係する日本語の研究書を手当たり次第読んでいくことを決心したわけでした。 本格的に勉強し出したら、もうやめられなくなっていました。ルネサンス期研究の下地をつくるだけという当初のプランはいつのまにかどこかへ消えていました。一定レベルの知識を得た後は、ギリシア語とラテン語の習得にあらん限りのエネルギーを注ぎ込み、ギリシアの作家ルーキアーノスに関する卒業論文を書き、大学院に進学し、今では専門研究者を目指しています。
ルネサンス思想研究を志していた当時は、西洋古典学にこれほどどっぷり浸かることになるなど、思ってもいませんでした。あのときエラスムスの著作を手に取らなかったら、僕が西洋古典学に出会うことはおそらくなかったでしょう。この大学者には感謝してもしきれぬ思いです。
勝又泰洋(京都大学大学院)