西洋古典学への誘い

チエシュコ マルティン:西洋古典学とインタネット利用(第2回)

 今回は西村賀子先生の『オデュッセイア』(岩波書店)を読んでいる学生のために様々なサイトを簡単に紹介したい。

 『イーリアス』と『オデュッセイア』は詩なので、そのリズムを鑑賞するには、やはり朗読を試みるのが重要である。ただ、実際にどういうふうに六歩格を朗読すればよいだろう? そういう疑問を覚える学生にはHagel/DanekA. D. Andrewsの再現がお勧め。S. G. Daitz先生の朗読も有名だが、ピッチアクセントが少し大袈裟ではないかと思う。発音の練習にもなるので、是非朗読を真似てみて下さい。

 『オデュッセイア』は長い作品だけあって、登場人物も多い。ストーリーの展開は実はとても分かりやすいが、全体的な構造を把握するには学生向けのCliff Notesのような入門書が良いだろう。

 ポセイダーオーンの怒り、アテーナーの後援、怪物との遭遇など、神話や童話の要素の知識を深めたい人には、Carlos Paradaのサイトが一番お勧めできる。図形、絵画の紹介、文学作品の引用がもりだくさん、非常によくできていると思う。

 ここまで来たら、ホメーロスをギリシア語で読んでみたいという人には是非Perseusを一度使ってみて頂きたい。ワンクリックだけで古代ギリシャ語、英訳、辞書、コメンタリーなど参考にできるので、初心者に欠かせないツールの一つであろう。

 最近Print on demandという本も出はじめた。Geoffrey Steadmanが特に優れたコメンタリーを数多く出している。彼のコメンタリーはAmazonでも購入できるが、本人のサイトからPDFとしてダウンロードも可能なので、好きなコメンタリーをダウンロードして下さい。レイアウトがPerseusより見やすいのが一番大きな点だろう:左ページにはテクスト、右ページの上に単語リスト、下には文法の説明、という仕組みの参考書である。頻度の高い単語のリストもあるので、一番基本的な単語が一目瞭然。

(おまけ)
 それ以外にも様々なサイトを紹介できるが、ここでは西洋古典学と直接関係がないが、Perseusに続いて、大学生にとって二番目に重要と言っても過言ではないツールに触れたい。ホメーロスの豊富な表現力は印象的だが、覚えなければならない単語の数があまりにも多いため、初心者にとってそれが大きな壁になると思われる。永遠に単語リストあるいはPerseusに頼ることは意味がない―いずれ単語を暗記しなければならない。しかし大学生はほかの事で忙しくて、単語を暗記する時間があまりない。そこで、効率の優れた勉強方法がなければ、単語を無視してしまうのが今の状況である。幸いに、心理学では既に19世紀から知られてきたSpaced repetitionという勉強方法がある。一言でまとめるとすれば、忘れかけようとするときに復習するのが一番効果的である。フラッシュカードを使って復習すると、時間がかかるし、最初から最後まで、簡単なカードも、覚えにくいカードも復習しなければならないため、明らかに時間の効率的な使い方とは言えない。そこで登場するのは、複雑なアルゴリズムを利用するパソコンのソフトウェアだ。無駄な勉強を省く、忘れかけている言葉だけを復習させるため、考えられないほどの数の単語が効率的に覚えられるようになってきた。一番お勧めできるソフトウェアはAnki というものである。ソフトを作った人が日本語の単語を暗記したくて作ったものなので、『暗記』と名づけたそうだ。

 「記憶の人フネス」(ボルヘス『伝奇集』の一編)を思い出させるほど効果的なプログラムである。iPhone以外のバージョンは無料。Spaced repetitionという世界一知られざる裏技の理論をWant to Remember Everything You'll Ever Learn?というちょっと長い記事が非常に興味深く紹介してくれるので、数千語の単語を効率的に暗記したい方は是非読んで下さい。

チエシュコ マルティン(京都大学)