古典学エッセイ

中務哲郎:「ヘクトルとアンドロマケ」に

 表紙絵の選者は2015年10月1日にデ・キリコ「ヘクトルとアンドロマケ」を選んで下さっていた。西洋古典を学ぶ者にして、ロシアによるウクライナ侵攻のニュース映像から、『イリアス』を思い出さない者があるだろうか。

 インタネット上の映像はややもすれば「映像は削除されました」と出ますが、そんな場合は、「ウクライナ 兵士 別れ」で検索すると、そのものが現れると思います。

 キリコの絵が描くのは『イリアス』6歌390行以下です。

 映像では、戦いに出る父親に抱かれた幼児が「父ちゃん、行ってはいやだ、いやだ」と父親のヘルメットを叩き続けます。ヘクトルとアンドロマケとアステュアナクスの場面はこの三千年来、どうしてなくならないのでしょうか。

  

中務哲郎 2022/3/23