コラム
西塔由貴子:Robin L. Fox先生の講義に行く@Liverpool 2012
今夏、毎年のようにお世話になっている Liverpool 大学にて、サマースクールの一環として開催された R. L. Fox (Oxford) 先生の講義に参加したので、それについてレポートしたいと思います。
リヴァプール大学の西洋古典学関連の講座は、Department of Archaeology, Classics and Egyptologyという名称で、ギリシャ、ローマだけでなく、エジプト関連も含め幅広い知識を学べる学部として存在している。夏には、これから西洋古典を学ぼうと思っている学生、純粋に西洋古典に興味がある人々を対象にしたサマースクールと、現時点でギリシャ語・ラテン語を教えている学校教員又は将来教員になろうと思っている人々を対象にしたサマースクールの二つを展開している。私の友人も含め、学部に所属するスタッフ陣が講義を行い、知識を教授する。参加者は図書館・博物館に入ることもできる。非常に魅力的なコース設定。年齢も職業もバラバラだけど、西洋古典に興味のある人間が集まって何かをする、アイデアを共有するというこの空気はとてもいいと思う。
友人と講義室に入ると、ざわざわしていて、活気がある。いつもの、目があったら、にこっと笑う。繰り返す。「何教えてるの」から普段の会話。当然のことだが定刻通りには始まらない。パワーポイントが動かないとか。ハンドアウトはバラバラで足りない。ハンドアウトもこっちに回ってきたけど、手書きで直してたり、二重線(?)波線(?)で、ぐっちゃんぐっちゃんにかき消すとか。このルーズさがたまらなく、いい。私はクスクス笑ってしまう。要するにわかればよくて、内容が大事、というこの空気に私はむしろ幸福感を覚える。
周りの人と会話を楽しんでいると、パワーポイントはなんとかなったらしく、ユーモアたっぷりに Fox 教授の紹介がなされ、空気がさらに和やかになる。(『アレクサンダー』(2004) のhistorical consultant を務め、しかもちょい役か何かでスクリーンに出たとのこと。この映画、「見なくては!」と思って映画館で見たけど、記憶にない…。)講義のタイトルは、「Pericles: Impact and Problems」。特にトュキュディデスを引用し、それとプラトンとの関連性も引き合いにしつつ、「Funeral speech とは…」等と疑問を投げかけながら、ペリクレスの役割について話していた。ペリクレスは政治家として知られているけれど、現代の我々が描く「政治」とは違う、「政治」とは、「民主主義」とは、と考えさせられると、言語表現の在り方にも関心のある私にとっては非常に興味深いものとなる。ギリシア語原典の引用部分を、辞書なしでさっらああ〜と訳しているのを見ると、もうまさに神業。St. Andrews 在学時の講義でも受けたあの衝撃と同じ。「この人は人間じゃない」と思ってしまう。
内容だけではなく、語彙のレヴェル、流れるような文章運び。「川の流れのように」綺麗で、しかも説得的な言葉の使用。考えて話しているけれど、切り返しの回転が速い。無駄な単語が少ないように思う。「限られた時間内にいかに効率よく言葉を扱うか」ということが自然と頭の中で操作されている。やっぱり違うなあ、すごいなあ、と再び刺激を受ける期間である。
講義後は、やっぱりワインでご歓談の時間となる。和やかな雰囲気から、さらにくだけて会話しやすい空気になる。「ヘクトルの武具は…」等々と話していると、楽しい。こういう講義に参加できる環境にあることには本当に感謝している。そして同時に「まだまだ」と再認識する非常に有意義な時間だった。頑張らねば。
(京都精華大学;西塔由貴子)