Q&Aコーナー

質問

 「ギリシア・ローマの文学や思想が、後世のヨーロッパにどのような過程を経て伝えられたのか」を知るための、推奨される文献を教えていただくことは可能でしょうか?

(質問者:catchy823様)

回答

 お問い合わせについて、おそらくもっともぴったりな文献は次の2冊かと思います。

  • (1) L.D.レノルズ/N.G.ウィルソン『古典の継承者たち』ちくま学芸文庫
  • (2) G.ハイエット『西洋文学における古典の伝統』筑摩叢書

 (1)は古典を誰がどのように書き写して伝えてきたかという文献学的視点から、その実相を古代から近世まで綿密に記述しています。

 (2)はそれに対して、中世以降の欧米の文学がそのときどきにおいて古典文学をどのように取り込み、息づかせてきたかという文学的視点から、その様相を網羅的に扱っています。

 加えて、そのような古典の継承を考えるときに、古典そのものに、つねに新しいものを創造するためには、伝統を生かし続ける、次代へ引き継ぐことが欠かせないという認識が動力源として働いていたように思われるのですが、その点でアプローチはかなり異なるものの、「教育」に目を向けた次の2冊も有意義だと思います。

  • (3) H.I.マルー『古代教育文化史』岩波書店
  • (4) W.イェーガー『パイデイア』知泉学術叢書

 (3)は古代に教育がどのように行なわれたかという実相に目を向け、(4)は古代の教育に教育の根本ないし教養を見出そうとして、その意義を考察しています。

 以上のうち、(1)は今年、文庫版が出たばかりで、(4)も2018年刊行なのに対し、(2), (3)は入手が難しいかもしれませんが、どちらも国会図書館デジタルコレクションのサービスでダウンロードできるようです。

 蛇足を少し。伝統から発した新たな創造は古典の源泉であるホメーロスからなされていますが、ホメーロスは文字を使わない口承(ないし口誦)伝統の中で詩作しました。口承と文字を用いる書承は様式のうえでまったく異なるように見えますが、底流にある精神は共通しているようにも思います。そうであれば、次の本は(邦訳がないのですが)伝統の形成について考えるのに有益だと思います。

  • (5) A.B.Lord, The Singer of Tales. Harvard UP

(回答:高橋宏幸)