Q&Aコーナー
質問
素人ながらギリシア神話を日々楽しく勉強している者です。トロイア戦争時代のアルゴスが好きなのですが、ギリシア・ローマ神話辞典(著 高津春繁)のステネロスの項で彼がテーバイ攻めの時に足を挫いたので徒歩では戦えなかったという説が載っておりました。いろいろ調べてみたのですが出典が分からずしまいです。もしよろしければお答えいただければと思います。
(質問者: ミドリ様)
回答
ご質問をお寄せくださり有難うございました。
アルゴス王アドラストスを総帥として、予言者アンピアラオス・豪傑カパネウス・テュデウスら7将がテーバイを追われたポリュネイケスを祖国に復帰させようとして起こした戦争が第一次テーバイ戦争。これは失敗に終わり、10年後にその息子たち(いわゆるエピゴノイ)が第二次テーバイ攻めを企てます。カパネウスの子ステネロスもエピゴノイの一人として参戦し、テーバイを滅ぼします。物語はよく知られていますが、この戦争を歌った『テーバイ戦記』『エピゴノイ戦記』は残念ながら失われて伝わりません。
『イリアス』第2歌の「船のカタログ」では、アルゴス・ティリュンス・トロイゼン等から出陣した兵士を指揮したのはディオメデスとステネロス、それにエウリュアロスとされますが(2歌559行以下)、他の箇所ではステネロスはディオメデスの御者であり従者だとされています(4歌367、5歌108、8歌114、23歌511等)。ステネロスもディオメデスもエピゴノイの一員で同等の勇士のはずですので、一方が他方の従者というのはおかしいと思われたのでしょう。古註(スコリア)にその説明が記されました。
「ステネロスは城壁から墜落して脚が利かなくなった。それ故、ディオメデスの手綱とりを勤める」(『イリアス』4歌106へのスコリアT)。
しかしこれは、何らかの典拠があるのではなさそうですし、古註者の憶測にすぎぬ、と個人的には感じています。
(回答:T.N.)