Q&Aコーナー

質問

 こんにちは、何らかの肩書か称号と思われるラテン語の略語で、調べても何を表しているのかわからないものがあり、質問させていただきたく存じます。

 趣味の関係で昔の文献を読んでいた際に、

Per Actum Dominorum Secreti Concilii AL. MAITLAND, Cls. Sti. Concilii
という署名がありました(私が読んでいたものとは違うのですが、インターネット上の文献で同様の署名を見つけましたので、以下にURLを記載します)。

https://www.google.co.jp/books/edition/A_Collection_of_Scarce_and_Valuable_Trac/U4VbAAAAcAAJ?hl=ja&gbpv=1&dq=Cls.+Sti.+Concilii&pg=PA145&printsec=frontcover

 "Per Actum Dominorum Secreti Concilii"は「君主の秘密議会の決議によりて」のような意味かと思うのですが、これはイングランド国王の枢密院の決議を意味しているのでしょうか?

 また、人名の後の"Cls. Sti. Concilii"に至っては、"Cls. Sti."がそれぞれ何の略なのかもわからず、途方に暮れております。インターネットで検索する限りではスコットランドの人名に付けられることが多いようなので、イングランドではなくスコットランドの何らかの肩書なのかな、と素人ながら考えております。

 浅学ゆえ、あまりにも初歩的な質問かとは存じますが、宜しければご教示いただければ幸いです。

 よろしくお願いいたします。

(質問者:かぬま様)

回答

 今回のご質問にあったラテン語の署名についてですが、該当のラテン語は1706年の日付を持つ文書の末尾にあり、Google booksで電子化されているT. Cadell and W. Davies, A Collection of Scarce and Valuable Tracts on the Most Entertaining Subjects: Reign of King William III (London, 1814), pp. 366-367で閲覧できました。近世スコットランド枢密院に関わるものと考えます。

 まず、AL. MAITLANDという人名の後についている略号Cls. Sti. Conciliiについてですが、

https://ota.bodleian.ox.ac.uk/repository/xmlui/handle/20.500.12024/B05292
などから見て、Clericus secreti concilii 「枢密院書記」を指すと考えられます。というのも、ここに出てくるGilb. Eliotなる人物は他の複数の書類上でCls. Sti Conciliiの略号で表記されているからです。また、他にも同じ人物について、Clkという略が確認され、これも英語のclerk(ラテン語のclericus)を指しています。

 残念ながら、近世スコットランドの法制史に関する適当な研究書をこの期間内に入手することが叶わなかったため、スコットランド枢密院書記の具体的な職掌についてまでは調べられなかったのですが、同時代のイングランドの書記の業務からは、書記が公的な文書の保管、発給などに関わったことが知られています。

 ラテン語に戻って、前半のPer Actum Dominorum Secreti Conciliiの部分についてですが、domini(英語ではLords)は枢密院に参加している「顧問官たち」を指します。したがって、全体の直訳としては「枢密顧問官たちの議事により」といった意味になるでしょうか。彼らは行政手腕などを買われて、王によって任命された有力者で、行政面で国王を補佐する存在でした。とくに17世紀のステュアート朝以後、イングランド王がスコットランド王を兼ねるようになると、スコットランドに国王が不在となることが多くなったため、枢密顧問官たちの役割は大きくなったようです。

参考文献

  • J. Goodare, State and Society in Early Modern Scotland (Oxford, 1999).
  • W. Holdsworth, A History of English Law, 7th edition by A.L. Goodhart and H.G. Hanbury with an introductory essay and additions by S.B. Chrimes (London, 1956).
  • E. Jowitt and C. Walsh, Jowitt's dictionary of English law, 2nd edition by J. Burke (London, 1977).
  • A. R. C. Simpson and A L. M. Wilson, Scottish Legal History (Edinburgh, 2017).

 

(回答:田中 創)