Q&Aコーナー
質問
内田次信先生の「オデュッセウスとその妻」(西洋古典論集,1994,11,p62-80)や岡道男先生の「ホメロスと叙事詩の環」(京都大学文学部研究紀要,1976,16,p55-338)では、オデュッセイアは原初の帰国者物語の主人公をトロイア戦争の英雄であるオデュッセウスにして出来たと解釈できるような書かれ方が見られます。この原帰国者物語そのものやそれとオデュッセウス、トロイア戦争伝説との関係性について論じた文献はありますか?
(質問者:A.K 様)
回答
「原帰国者物語」というのはそういう特定の話や作品が確定できるわけではもちろんなく、世界各地のいわゆる「民話」で『オデュッセイア』と類似のテーマ(帰国する夫、日本の『百合若物語』型)を扱う話が知られるので、この叙事詩にも同様の(おそらく口承の)話が行なわれていて、それがここで下敷きないし参考にされただろうという推測がされるということです。 そういう各地版民話については、
M.L. West, Indo-European Poetry and Myth, 438ff.でいくつか紀介されています。より古い独語文献が
A. Lesky, RE(Pauly-Wissowa)SUPPL. XI, 801で言及されています(世界文学)。
また『オデュッセイア』には他の民話ないし文学のテーマも絡み合わされた上で一つの作品にまとめられているので、それが研究における重要で難しい問題になっています。こういう点については例えばオックスフォードの3巻本注釈
Heubeck et alii, A Commentary On Homer’s Odysseyで、索引(nostos, return等)も参考にしながら考察に役立てたらどうかと思います。
(回答者:内田次信)
2021/03/12