Q&Aコーナー
質問
こんにちは。岩波文庫の高津春繁先生のアポロドロスの翻訳からヘラクレイアのヘロドロスの断片を探していると、ヘロドロスをヘロドトスと間違えているかもしれない箇所があることに気づきました。それは第3巻の5の6、タンタロスの娘ニオベの子供が何人いたかという部分で、先生の翻訳では「ヘロドトスは2男3女」となっていますが、Perseus Digital Library - Tufts University というサイトを見ますと「... Herodorus that they had two male children and three female」となっています(http://www.perseus.tufts.edu/hopper/searchresults?q=Herodorus)。どちらが正しいのでしょうか。よろしくお願いします。
(質問者:zerase様)
回答
ご質問有難うございました。
アポロドロスのテクストは J. G. Frazer, Apollodorus The Library. 2 vols. (Loeb Classical Library. 1967)を使っていますが、そのIII. 5. 6 には簡単な校訂資料が付記されています。それによると、殆ど全ての写本では ἡρόδοτος(ヘーロドトス)とあるところを、editio princeps(印刷本初版、1555年)の編者Benedictus AegiusがἩρόδωροςに改めたということです。Frazer は R. Wagnerのテクスト(Teubner, 1894)をほぼ踏襲していますが、両者は写本を誤記とみてAegiusの校訂案を採用するわけです。
現存するヘロドトス『歴史』にはニオベの子供の数についての記事はありませんし、一方、ヘラクレイアのヘロドロスには『ヘラクレス物語』、『アルゴナウタイ(アルゴナウティカ)』、『オルペウスとムサイオスの物語』等の他に『ペロペイア(ペロプス物語)』なる作品があり、ニオベの子供の数はそこで語られていた可能性がありますので(断片56。F. Jacoby, Die Fragmente der Griechischen Historiker. I A. Leiden 1968 (1957))、ここは「ヘロドロス」と読むのが至当だと思います。
尚、Frazerはこの箇所への訳注に、ニオベの子の数について言及した作家を他にも多数挙げています。
(回答:T. N.)
2020/01/20