Q&Aコーナー

質問

アテネのアゴラーに「我はアゴラーの境界標石なり」と刻んだ石がいまも保存されていると聞いたことがあるのですが、どこにあるのでしょうか。

また、この写真を掲載している本があればご紹介ください。

(質問者:しかたにいさお 様)

回答

ご質問、ありがとうございます。

ご提示いただいた銘(ΗΟΡΟΣ ΕΙΜΙ ΤΕΣ ΑΓΟΡΑΣ(HOROS EIMI TES AGORAS ※ローマ字表記に変換するとこのようになります)が刻まれている境界標石(古代ギリシア語では「ホロス」と言います)は、古代アゴラ遺跡から3つ発見されています。3つとも紀元前500年頃に作成されたもので、そのうちの1つは断片の状態で残念ながら一般には公開されていないようですが、残りの2つはほぼ完全な状態で残存しており、現在、古代アゴラ遺跡の東に復元されている「アッタロスのストア(柱廊)」(古代アゴラ遺跡の遺構の場所については、「古代アゴラ遺跡全体図」をご参照ください)に、両方共に展示されています(写真1、2 ※後述の書籍等の情報を踏まえますと展示されているのはオリジナルのはずなのですが、レプリカの可能性もありますので、この点にご注意ください)。

ご質問にたいする回答からは少々横道にそれるかもしれませんが、3つの境界標石の出土状況についても簡単に説明させていただきます。

断片の状態の境界標石は、遺跡の西に位置する「ヘファイストス神殿(通称、テセイオン)」の内陣の床下にあるトルコ人の墓から発見されまして、どうやら石材として再利用する目的で、元々あった場所から移動させられたようです。その一方で、ほぼ完全な状態で発見された境界標石2つは、元々設置されていた場所から発見されております。その場所というのは、遺跡の南西に位置する当番評議員のつめ所、「トロス」の南側にある「シモンの家」(写真3)の北東の端(境界標石その1)と、そこから少し南に進んだところ、「中央ストア」の北西の端(境界標石その2)です。少なくとも2つのうち前者は、現在でも出土場所にレプリカ、もしくはオリジナル(アッタロスのストアにあるものがレプリカの場合)が設置されており(写真4)、当時の状況をしのぶことができますので、古代アゴラ遺跡を訪れる機会がございましたら、ぜひご確認ください。

ほぼ完全な状態で発見された、上述の2つの境界標石の詳細につきましては、日本語ではなくて申し訳ないのですが、古代アゴラ遺跡の発掘を行っている在アテネ・アメリカ古典学研究所(The American School of Classical Studies at Athens =ASCSA)が発行している、以下2冊の案内書において写真付きで解説されています。

■古代アゴラ遺跡の案内書
J. M. Camp II, The Athenian Agora: Site Guide, Fifth Edition, The American School of Classical Studies at Athens, 2010.

■古代アゴラ遺跡博物館の案内書 L. Gawlinski, The Athenian Agora: Museum Guide, The American School of Classical Studies at Athens, Fifth Edituion, 2014.

また、在アテネ・アメリカ古典学研究所が運営しているホームページのコンテンツの1つであるデジタルコレクション(ASCSA Digital Collection: http://ascsa.net/research?v=default)でも、ほぼ完全な状態で発見された2つの境界標石の解説や写真などを閲覧することが可能です。以下にリンクを掲載しますので、もしよろしければご参照ください。

2つの境界標石についての解説(写真、製図付)

■2つの境界標石各々の詳細情報(写真付)
境界標石その1(Agora I 5510)
境界標石その2(Agora I 7039)


写真1 境界標石その1


写真2 境界標石その2


写真3 シモンの家


写真4


(回答:篠原道法)