Q&Aコーナー
質問
現在、英語のresponsibilityなどの語源であるラテン語のrespondeo(responsus)について調べている者です。
responsibilityの説明では、ローマの法廷での弁明などに使われていたrespondeo(文献によってはresponsus)から「応答可能性」という意味で責任の意味になったという説明を見たのですが、本日羅和辞典(研究社)などを見るとrespondeoには、「負債を弁済する」など、責任を想起する意味もすでに含まれていました。
そこで、
?respondeoやresponsusは、責任的な意味が元来含まれていたと考えてもよろしいのでしょうか?
?英語のresponse(返答)との関係では、別々の語源と考えた方がよいのでしょうか?それとも同じ流れで派生したものと考えた方がよいのでしょうか。
というのは「責任」を「応答可能性」と考えるのは、いろいろな意味で迂遠な説明ですので(これで「責任」の意味を説明する文献(「呼びかけに答えるのが責任である」とか)もあります)。語源にすでに責任の意味があれば、もう少しすっきりと理解できると思ったのですが。
(質問者:木本明宏 様)
回答
ご質問ありがとうございます。
まず、英語のresponse「返答、反応」の語源はrespondeoです。responsibility「責任」は、後代に作られた言葉ですが、語源をさかのぼるとrespondeoとなります。原義は「返答・反応できる状態」のようです。
そこで、ラテン語のrespondeoについてですが、この言葉自体はre / spondeoの2つの部分からなります。spondeoは「誓う、約束する」を意味する動詞です。接頭辞のre-は「反対に、ふたたび」を表します。したがって、respondeoは原義としては「~にたいするお返しとして(何かを)約束する」になります。もう少し分かりやすく言うと、「ある事柄や出来事にたいして、何か対応をする」くらいのニュアンスだと思います。そのため、respondeoは一般的に「応える、返答する」という意味で使います。法廷では、質問に対して「答弁する」という意味になります。responsusはrespondeoの分詞もしくは名詞です。
「金を借りるという行為に対して、返すという対応をする」ことを表す場合には、respondeoはご指摘の「負債を弁済する」という訳になります。
しかし、respondeoに「責任」という直接的な意味はないです。むしろ、後代に「責任」(responsibility)という言葉を作るとき、respondeoの意味合いを利用したのではないかと思います。つまり、respondeoの意味を反映させてresuponsibilityを解釈するなら、「責任」とは「何らかの事柄にたいして、対応することができる自由な状態にある」、そして「自由な意志にもとづいた行為の結果にたいしては、(他の人ではなく)自分が引き受ける・対応する必要がある」というような意味を含んでいそうです。
「責任」という概念自体が難しさをはらんでいますので、しっかりとしたお答えができているかどうかわかりませんが、何かのヒントになれば幸いです。
(回答者:河島思朗・東海大学)