Q&Aコーナー

質問

ラテン語とギリシャ語どちらから先に勉強した方がいいでしょうか?それとも同時並行で勉強した方がいいのでしょうか?

(質問者:文屋文哉 様)

回答1

文屋文哉様

ご質問ありがとうございます。まずは私からご回答いたします。

私自身は、少し時期がずれていましたが、同時並行的に学んでいました。大学生の時に、先にギリシア語の授業が始まり、次の学期からラテン語が始 まったからです。ギリシア語文法の後半はラテン語と同時並行的でした。どちらも1年生の時に学んだことになります。

どちらを先に学ぶか、また学ぶ時期については、目的によると思います。私の場合、なるべく早く古代の文学作品を原典で読みたいと考えていたので、 すぐに履修できるギリシア語から先に始めました。2年生からはラテン語とギリシア語のテキストを読みだすことができました。とはいえ、語学は初頭 文法で終わるわけではありません。テキストを読みながら、実践的に学び続けました。

私が授業を担当している学生の中には、言語そのものに興味を持っている方が多くいます。例えば、フランス語を専門としている学生がフランス語をよ り深く知るために古典語を学ぶ場合には、ラテン語から始めたほうがいいと思います。フランス語の直接の祖先ですし、似た部分も多いからです。その あとで、言語的な興味からギリシア語を学び始める方が多いです。

また、古代ギリシアの歴史や哲学に興味がある学生は、先にギリシア語を学んだほうがいいと思います。おそらく歴史の勉強もしながらギリシア語を学 ぶことになると思います。まずはギリシア語を学び、その後ラテン語を履修すればいいのではないでしょうか。

私としては、文屋文哉さんのご興味のある分野から先に学ぶことをお勧めしたいとおもいます。

(回答:河島)

回答2

回答が大変遅れまして申し訳ありません。

 「ラテン語とギリシア語とどちらを先に学ぶべきか、また並行して学ぶべきか」という質問内容から恐らく、現時点では漠然と言語や西洋文化に関心があるようなお立場だと推察致します。

 ラテン語とギリシア語の両方を並行して学ぶ場合、両言語ともの予備知識がゼロの状態よりは、いずれか一方の学習経験が多くある場合の方が、並行して学ぶ際の効果も大きいと思います。

  そこで、もしまずどちらかを先に学ぶのだとすれば、私はラテン語をお勧めします。英語が数多くの単語をラテン語から直接的にも間接的にも取り込んでいるため、英語学習経験のある我々にとっては、語彙レベルにおいてある程度馴染みやすいからです。 もちろん語彙の知識だけがあればラテン語を理解できるというものではありません。ラテン語もギリシア語もいわゆる「屈折語」であり、名詞・動詞共に文法的規則に基づいて多くの変化をします。両言語とも学習に際しては、一単語一単語、「なぜこのような変化の形をしているのか」ということを覚え理解しなければなりません。学習を開始する際にはこの点に特に注意してください。

 ラテン語もギリシア語も、「インド・ヨーロッパ祖語」から分岐して成立したものであり、文法的特徴において様々な共通点があります。またギリシア文化を取り込みつつローマ文化が発展したということもあり、これらの点から、両言語を並行して学ぶ意義は大きいといえます。ただし、その両言語に共通する文法的特徴について比較言語学の側面から正確に理解するには、また別個に専門書にあたる必要が出てきますので、この点にも注意してください。

 ギリシア語学習に関しては、最近、大変良い語彙集が出版されましたので、学習を開始する際にはぜひ手に取ってみてください。山口 義久 (監修) 『古代ギリシャ語語彙集 基本語から歴史/哲学/文学/新約聖書まで』大阪公立大学共同出版会、2016です。

 なお私自身の学習経験としましては、まずラテン語だけを学び、それからラテン語とギリシア語を並行して学んだという形になります。

 最後に、古代ローマの弁論術教師であったクインティリアヌスが言語教育について述べている箇所について言及しておきます。もちろんこれはラテン語ネイティブの人々に向けて述べられているわけなのですが、現在の我々にとっても益するところは大きいと思います。

「私の考えでは、子供はギリシア語から学習を始めたほうがよいと思います。というのも、ラテン語は一般的に使われており、たとえわれわれが望まなくても子供は吸収するからであり、同時にまた、われわれの学術の源流でもあるギリシアの学術も先に教えられるべきだからです。しかしながら、この点を妄信するあまり、大部分の人々の習慣にはなっていますが、子供が長い間ギリシア語だけを話したり学んだりしてほしくはありません。というのもここからきわめて多くの弊害が生じるからです。外国語風の音にくずれてしまうという発音上の弊害や、表現上の弊害であって、表現の上では、ギリシア語の言い回しが不断の口癖となってしみついてしまうと、別の言語での言葉づかいにも極めてしつこく残ることになるのです。それゆえあまり間をおかずラテン語の学習が続いてすぐに平行しておこなわれねばなりません。両言語に等しく関心を払うようにしはじめるなら、どちらの言語も互いに妨げとはならないでしょう。」

(森谷宇一他訳、クインティリアヌス『弁論家の教育』1、京都大学学術出版会、2005(西洋古典叢書シリーズ)、p. 16-17)

(回答:西井)