Q&Aコーナー

質問

唐突ですが、ストバイオスの抜粋集や、精華集の日本語訳や、英語訳の本を探しているのですが、何も見つかりません。いろんな本で引用されてよく目にするんですが。ストバイオスについての情報をおしえてください

(質問者:エイト君 様)

回答

 ご質問者はストバイオスの辞書的な説明は既にご存じで、どうすれば読めるのかという具体的な情報をお望みなのだと思いますが、一応、辞書的なことから始めます。

 ストバイオスは4/5世紀の人、マケドニア北部の町ストボイ出身で、「ストボイのヨハンネス」が正式の呼称でしょうが、「ストボイの人」が後世の通り名となっています。400年頃に、息子セプティミオスの教育のためにギリシア語文献からの抜粋集4巻を編んだとされます。

 刊本はTh. Gaisford編のもの(4 vols. Leipzig, 1823-24)、C. WachsmuthとO. Hense編のもの(5 vols. Berlin 1958, 1999)、他に袖珍版3冊本もありますが、 これのラテン語訳が1517年に、ドイツ語訳が1551年に出ている(Der Kleine Paulyによる)ものの、英語訳・日本語訳はないと思います。

 書名はAnthologion (ラテン語形でAnthologium, Florilegium)、その内容は、eklogai, apophthegmata, hupothekai, つまり「選び出し(抜粋)、警句、教訓」となっています。初めに「自然学抜粋集」と「倫理学抜粋集」があり、その後細かく章を区切って、「徳について」「悪徳について」「節度について」「放縦について」「勇気について」「怯懦について」「政治について」「法律と慣習について」王権、平和、技術、愛、美、結婚・・・人事万般にわたるテーマに関わる佳句名言を夥しく引用し、引用される詩人・著作家は500人に上るそうです。

 ストバイオス全体の邦訳はありませんが、現存する作家・作品からストバイオスが引用・抜粋を行っている場合は、現存するものとストバイオスの引用ぶり・抜粋ぶりを比較できるわけです。例えば、プラトンの現行テクストとストバイオスの引用するプラトンとを比べてみるのも一興でしょう。

 それよりも、ストバイオスが貴重なのは、失われた作家・作品からの引用が非常に多いということで、その場合にも、今日では数々の「断片集」でかなりのものが読めるようになっています。

 試みに、ストバイオスによる抜粋・引用のお陰で哲学や悲劇・喜劇の断片がどれくらい今日に伝わったかを数えてみました。岩波書店刊の「ギリシア悲劇全集」「ギリシア喜劇全集」「ソクラテス以前哲学者断片集」の出典索引でストバイオスの登場回数を数える、という簡単な方法です。「箴言」的な科白を多く使う作者ほど頻繁に引用されています。

 アイスキュロスの断片 30回(但し、岩波版ではアイスキュロス断片の全てを訳出したわけではありませんので、概数とお考えください。悲劇・喜劇詩人については以下も同様)
 ソポクレスの断片 137回
 エウリピデスの断片 176回
 群小悲劇詩人の断片 数えきれず
 アリストパネスの断片 7回
 メナンドロスの断片 313回
 群小喜劇詩人の断片 332回
 ソクラテス以前哲学者の断片 数えきれず、実に夥しい

 なお、悲劇・喜劇詩人の断片ではなく、現存作品をストバイオスが引用している場合ももちろん沢山あり、その回数はここには入っていません。

 同じく岩波書店から刊行された「ギリシア悲劇名言集」(新装版、2015年11月)は、ストバイオスが引用することによって今日まで伝わった悲劇の名科白ばかりを選んでいます。その数550。従ってこれを読めば、ストバイオスを拾い読みしたことにはなります。

 先頃刊行された西村賀子訳「エレゲイア詩集」(京都大学学術出版会)に収められた「テオグニス」なども、教訓詩的な性格ゆえにストバイオスに引用された句が沢山あります。

(回答:T.N.)