Q&Aコーナー
質問
ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』をギリシア語原典で読んでいて特に、glaukōpis Athēnē「輝く眼の女神アテネ」のglaukōpis「輝く眼の」といったような、ホメロスが用いているエピセット(枕詞・定型表現)に関心を抱きました。おそらく、既にホメロスのエピセットについては、詳細に分類しまとめられた書籍があるのではないか と推測するのですが、もしそのような書籍があるならばお教え頂けないでしょうか。
(質問者:A. K.様)
回答
ご質問有難うございました。
『イリアス』『オデュッセイア』を読んで、近代文学では見慣れない魅力的な要素としてエピセットに 注目する人は多いのではないかと思います。しかし、それを簡便に解説した本はあまりないことに気づかされました。ご質問には「エ ピセットを詳細に分類したもの」とありましたので、まずそのようなものを挙げてみます。
・J.H.Dee,The Epithetic Phrases for the Homeric Gods.(Epitheta deorum apud Homerum).New York 1994
これはタイトルが示す通り、神々にかかるエピセットを網羅的に分類整理して、前後の文脈を示したデータベースのようなものです。 副題をタイトルにした姉妹版があり、
・J.H.Dee,Epitheta hominum apud Homerum.(The Epithetic Phrases for the Homeric Heroes.A repertory of descriptive expressions for the human characters of the Iliad and the Odyssey).Olms-Weidmann 2000
・J.H.Dee,Epitheta rerun et loco rum apud Homerum.(A repertory of descriptive expressions for things and places in the Iliad and the Odyssey).Olms-Weidmann 2002
で英雄・人物・事物・場所のエピセットが揃います。しかし、膨大なデータを使いこなすのは大変です。
解説書はとみると、oral poetryの技法の分析で先駆的な書物として有名な、
・A.Parry,ed.,The Making of Homeric Verse. The Collected Papers of Milman Parry.Oxford 1971
に、The Traditional Epithet in Homer の長い1章(1~190頁。初出1928年)がありますが、ホメロスの詩行構成にformulaがいかに有効に働いているかの分析の中でのエピセットの扱 いですから、エピセットとは何か、ということが考察されるわけではなかったと思います。そこで図書館で探したところ、
・Paolo Vivante,The Epithets in Homer. A Study in Poetic Values. Yale UP 1982
というのがありました。この書はエピセットの定義や意味、具体的な使われ方の検討を行い、エピセットが単に伝統的に受け継がれて きただけのものではなく、それを使うホメロスの美意識が光っている、というような立場から書かれたもののようです。
ホメロスの研究書や注釈書はどれでも、索引を引けばたいていepithetの項目がありますが、エピセットとは何かという解説 にはなっていません。
・C.M.Bowra,Tradition and Design in the Iliad. Oxford 1963(1930)
・ib.,Homer.London 1972
などにやや纏まった説明があることを付け加えておきます。ホメロスの専門家の方々に、よき書物があればご教示・ご連絡をお願いい たします。
(回答:T.N.)