Q&Aコーナー

質問

 アリストパネース「リューシストラテー(女の平和)」150行の「アモルゴス製の下着」のamorginos の解釈には、この高津春繁訳(岩波文庫)および丹下和彦訳(岩波全集)の解釈のほかに、「褐色の」とか「ウスベニアオイ製の」という解釈も可能であり、また、アモルゴス島で高給麻布の製造ならびに麻の栽培などの根拠がないように思いますが、上記翻訳の根拠がお分かりなら教えて頂けませんか。

(質問者:植田久美子様)

回答

お答えします。

 (1)「褐色の」の訳語使用の可能性:あります。ただここで色合いを強調する必要性はないと思いました。カラーの下着で亭主の性欲を喚起するというのは現代的ではありますが。むしろここでは「透けて見える」ことのほうが強調されています。そして色調は「褐色」というよりは「紫、紫紅purple」であると注釈者(Henderson)は言っています。蛇足ながら。

 (2)「ウスベニアオイ製の」の可能性:あります。辞書Liddell・Scottにはamorginosの名詞形amorgisはstalks of mallow(ゼニアオイの茎)とあり,したがって形容詞形amorginosはmade of amorgis(ゼニアオイの茎(の繊維?)で作った(下着))となります。ところがその縮約版では名詞形amorgisはfine flax from the isle of Amorgos(アモルゴス島産の薄い亜麻布)、形容詞形amorginosはmade of fine flax(薄い亜麻布でできた)とあります。いずれを採るか難しいところです。貴女のおっしゃる「ウスべニアオイ製の布」というのはちょっと想像できませんが、「その繊維を織って作った布」ということなのでしょうか。この語amorginosには古代からの注釈者も困っているようですが、いずれにせよ「薄物の(下着)」だと思います。

 (3)「アモルゴス島での高級麻布製造、麻の栽培の根拠」:これは難しい問題で、確たる根拠は示されません。アモルゴス島は材料の産地だけで織布は別の場所だったのかもしれません。参照した資料でこのことに詳しく触れたものはなかったように思います。ただ古代では羊毛布はギリシア人、麻布は小アジア、ペルシアの人たちが主として使用したということはあったようで、アモルゴス島はエーゲ海でも東寄りですから麻の生産、麻布の製造は案外盛んであったとも考えられますが、確証はありません。

 以上、意を尽くした解答とはなりませんが、とりあえずお答えとさせていただきます。疑問点はまたどうぞお書きください。訳者も考えてみます。

(回答:丹下和彦)