Q&Aコーナー

質問

 はじめまして。イソップ寓話の出典についてお訊ねします。

 わが国の児童書(川端康成編『イソップどうわ』、浜田広介著『ひろすけ幼年童話文学全集(8)』など)で見かける「子どもとカエル」という寓話の出典をご存じでしたらご教示ください。

タウンゼンドの英訳版『イソップ寓話集』(1867年刊)には〈The Boys and the Frogs〉という題名で掲載されています(下記全文)。

SOME BOYS, playing near a pond, saw a number of Frogs in the water and began to pelt them with stones. They killed several of them, when one of the Frogs, lifting his head out of the water, cried out: 'Pray stop, my boys: what is sport to you, is death to us.'

しかし、ペリー版やシャンブリ版の校訂本には、該当する話が見つからなかったのですが、ギリシャ語やラテン語の原典は存在しないのでしょうか。

どうかよろしくお願いいたします。

(ペイライエウス 様)

回答

 イソップ寓話についてのご質問に対して、近現代のイソップ集から溯るのと、古典文献中に類話を探すのと、二方向で考えてみました。

 タウンゼンド版(1867)で、ペリーに含まれない話は5話あります。すなわち、
46. The Boy and the Filberts
52. The Boys and the Frogs
61. The Boy and the Nettles
122.The Milk-Woman and Her Pail
113.The Three Tradesmen

 タウンゼンドに先行するThomas James版(1848)には、
147.The Boy and the Filberts
172.The Boys and the Frogs
130.The Boy and the Nettles
196.The Three Tradesmen
104.The Country Maid and her Milk-can
がありますので、タウンゼンドがジェイムズを利用したか、両者が共通の祖本を持つかですが、その祖本が何かは今、調べがつきません。ただ、ペリー『Aesopica』にも「上の者のつまらぬ争いでも下々には命に関わる」という主旨の話があります。

 ペリー485番(=パエドルス『イソップ風寓話集』1.30「牡ウシの喧嘩におびえるカエルたち」

下々の者は力のある者たちがいさかいを起こすと迷惑をこうむります。沼に住む一匹のカエルが牡ウシの喧嘩を見てこう言いました。
「これは一大事だ。大変なことになるぞ」
すると別のカエルがこう尋ねました。
「どうしてそんなことを言うんだ。奴らの喧嘩は群れのボス争いが原因だし、ふだんはずっと遠くで暮らしているんだから」
「たしかに住む場所は離れている。カエルとウシでは種族が違うのももちろんだ。でもあのどっちかは牧場の縄張りから追い出されて、この沼を隠れ家にしようときっとやってくる。そうしたら、僕たちは固い蹄でぺしゃんこにされてしまうのがおちだ。だから、奴らの頭に血が上っているってことは、僕たちの命にもかかわっているんだ」
(パエドルス/バブリオス『イソップ風寓話集』岩谷智・西村賀子訳、国文社より、岩谷智訳)

 ラ・フォンテーヌ『寓話集』2.4もこれの同話です。

 一方、古典ではプルタルコスにこんな記事があります。

 ビオーン(黒海北岸、ボリュステネス(オルビア)の哲学者、前4/3世紀)がこう言った。子供たちは遊びで蛙に石を投げるが、蛙は遊びでなく本当に死ぬのだ。そのように、狩りをする者、釣りをする者は、可哀想に幼獣や雛から引き離される動物の苦痛や死を楽しんでいることになる。 (『陸の動物と水の動物のどちらがより賢いか』965B)

 この記事は、タウンゼンド版『イソップ寓話集』の〈The Boys and the Frogs〉に極めて近いけれども、ジェイムズもしくはタウンゼンドがここから直接にこの話を作ったのか、それ以前の誰かが既に作っていたのか、分からずにいます。

(回答者:花間隆、中務哲郎)