Q&Aコーナー

質問

早速質問なのですが「スキュタレー」というスパルタで発明されたという暗号についてです。

この棒に巻きつける素材はなんでしょうか? 

辞書には革を巻きつけるように書いてありまして、それで以前は納得していたのですが、確か「古代ローマ人の24時間」だったと思いますが、パピルスを巻きつけると読みました。

それでどちらなのかウィキペディアを見たところ、羊皮紙と翻訳されてまして、念の為に家にあった「プルターク英雄伝」で確認したところ、その部分はパピュロスと翻訳されていてさらに分からなくなりました。

オンラインスーダも見てみたのですが、そちらはどうやら革のようです。

どうお考えになりますでしょうか? (仁史 様)

回答

 ご質問有難うございました。プルタークは固より、『スーダ』までご覧になったのには敬服致します。

 結論から申しますと、棒に巻き付けるものとしては皮紐とパピルスと、両方使われたのかもしれません。プルタルコス「リュサンドロス」19に詳しく説明されているように、「長さも幅も皮紐のようにしたパピルス」と明記されてありますので。

 一方、もう一つの詳しい記述は、ゲッリウス『アッティカの夜』17.9.6以下ですが、そこでは、「適度な薄さ、しかし十分に長いlorum(皮紐)」と記しあります。また、アリストパネス『鳥』1283へのスコリア(古注)にも、「棒に白い皮を巻き付け」とあります。

 スキュタレーの使い方からすれば、皮紐でもパピルスでも可能でしょうが、個人的には皮紐説を取りたい理由がいくつかあります。
1.前5世紀のギリシアでは、パピルスは貴重品で、皮紐の方が調達しやすかった。
2.プルタルコス「リュクルゴス」30に、ヘラクレスがライオンの皮と棍棒を持って世界を巡り、怪物退治をしたように、スパルタは一本のスキュタレーと一枚のトリボーン(すり切れマント、羊の毛皮が想定される)だけでギリシア全体を心服させた、とあり、この場合のスキュタレーは使節の杖でしょうが、棒と皮でヘラクレスの比喩にうまく対応する。
3.アリストパネス『女の平和』991に、スパルタからの使者が、股間にぶら下げたものを指指されながら、「お前のそれは何だ?」と尋ねられて、「スパルタの暗合棒だ」(skytala Lakonika)と答える場面があります。喜劇俳優は革製の巨大なパッロス(陽根)を装着して舞台に上がりますが、『女の平和』では、女たちのセックス・ストライキのため、男たちはそれでなくても大きなパッロスを腫れ上がらせている、という設定です。「それは何だ」と訊かれて、「皮を巻いた棒」でこそ面白い。(なお、喜劇俳優のパッロスが革製であることは、同じくアリストパネスの『雲』538から分かります)

(なお、古代の事物に関する疑問については、Ch.Daremberg et Edm.Saglio,Dictionnaire des antiquites grecques et romaines(アクサン省略) がとても役に立つのですが、今ちょっと大学まで調べに行けませんので、手元の資料だけで失礼します)

(回答 T.N.)