西洋古典学への誘い

西洋古典学を学ぶきっかけ

 最初に私が一般教養で西洋古典を履修したのは、単なる単位の数合わせのためでした。ラテン語や古代ギリシャ語を学ぼうと思ったのも、単に“古典語ってなんとなく格好いい”という、何かミーハー心の延長みたいな気持ちからでした。

 私の“きっかけ”は、そんなものでした。

 しかし、そうして一度覗き込んだギリシャ・ローマの神話の世界はただ単純に面白く、作品の日本語訳や、時には映像作品も交えながら、学問というより趣味のようにして楽しんでいました。

 そこから、実際にその分野で卒業論文まで書こうと私に思わせたのは、西洋古典の先生方の学問に対する誠実な態度だったと思います。それは素人の私にも感じ取れ、この先生方の下でなら、私も“学問”というものの片鱗に触れることが出来るのではないか、自分の知らない教養の世界が垣間見られるのではないか、という気持ちになったのです。

 相変わらず何か漠然とした憧れに流されていたわけですが、こんな感情も、時には有効な導き手になるものなのでしょう。

 4年後、私は迷わず大学院への進学を決めました。それは幸い、“大学院で勉強するってなんか格好いいから”という理由からではなく、作品によっては2500年以上もの間人の手で連綿と書き継がれ、あらゆる時代の人々を魅了してきた作品達の普遍的な魅力の所在を、自分の目で見極めてみたいと思ったからでした。

 古代の人々の言葉という貴重な遺産を受け取り、それを更に後代へと伝えていくという仕事に携われることは、人としてとても光栄なことだと、私は今も思っています。

上野由貴(首都大学東京大学院)