Q&Aコーナー

質問

古代ローマ人はどのようにしてギリシア語を学んでいたのですか。

(質問者:=)様)

回答

 興味深い問題ですね。今日の学校のカリキュラムのような形では分かりませんが、読み書きを覚えた児童は、ギリシャ語とラテン語の先生(grammaticus)のもとで授業を受けました。ラテン語は自動的に身についてしまうから、先にギリシャ語の先生の授業を受けるべきだとクインティリアヌス(「弁論術教程」4.1)は主張しています。児童教育の目的は恐らく日常的な標準語(コイネー)を身につけることでした。その方法は、Hermeneumata(解釈、通訳)というマニュアルから伺えます。残っている例はGoetz、III巻に集められていますが、E. Dickieが2012年に英訳つきの改訂版を出したのでそれも参考になります(Vol.2は未刊行)。Hermeneumataは基本的に四つの部分からなっています:1.アルファベット順のギ・ラ単語帳(特に動詞)、2.テーマ別語彙集、3.日常的な表現―起床時間から床に就くまでの出来事を簡単なギリシャ語・ラテン語の表現を使うことで児童が基本的な慣用句や文法をマスターできます。学校の様子も記載されており、興味深い資料です。最後は4.イラストつきのイソップ物語など、やさしい読み物の付録でした。次のステップとして、コイネーと古典文学(韻文、散文両方)との違いを整然と取り上げた教科書、(例えば13世紀以上も愛読されていたDionysos ThraxのTechne Grammatike)が使用されていました。文学鑑賞やレトリックの授業を終えた学生は、基本的に人生のどの場面にでも適切な一節を即座に引用できるほど古典文学との馴染みが深かったのです。

参考
G. Goetz, G. Loewe, Corpus Glossariorum Latinorum, vol. III (1892):
https://archive.org/details/corpusglossarior03linduoft

Hermeneumataの3番目の部分がオンラインでも閲覧できます:
http://www.hs-augsburg.de/~harsch/graeca/Chronologia/S_post03/Dositheus/dos_col0.html

Eleanor Dickey, The Colloquia of the Hermeneumata Pseudodositheana. Volume 1: Colloquia Monacensia-Einsidlensia, Leidense-Stephani, and Stephani. Cambridge 2012. (Dickieはこれをもとにしたラテン語の教科書も考えているそうです)

A. C. Dionisotti, "From Ausonius' Schooldays? A Schoolbook and its Relatives," Journal of Roman Studies, 72 (1982) 83-125.

Dionysos Thrax:
https://archive.org/details/grammarofdionysi00dionuoft(英訳)

一般的な教育についてはOxford Classical Dictionary (‘education’) とS.F. Bonner, Education in Ancient Rome: From the Elder Cato to the Younger Pliny, Berkeley, 1977をお薦めします。

(回答者:Martin Ciesko)